〜みんなとみらいへ〜 横浜みなとみらい21公式ウェブサイト

光の芸術家 ゆるかわふうの世界 宇宙(そら)の記憶 2022年11月12日(土)―12月25日(日)

「ゆるかわふう」によって考案された世界初のオリジナル技法「光彫り」の作品は、建築物の内側に 使われる発泡断熱材を使用して制作されます。断熱材の背後から LED 照明を当て、表面を金属ブラシ で削ったり、半田ごてやシンナーで溶かしたりして凹凸をつけ、その彫り具合で濃淡を作り、光と陰影 を表現します。
壁や床の中に埋め込まれ普段目にすることのない断熱材ですが、東京藝術大学で建築を学んだ「ゆる かわふう」にとっては、建築模型を作るための材料として身近なものでした。ある時、断熱材の背後か ら白い光を当ててみたところ、浮かび上がった美しく鮮やかな「青」が、趣味のダイビングで魅せられ ていた海中の「青」に重なりました。絵の具ではできない透明感のある奥行きが表現できるこの画材と 技法の発見により、唯一無二の「光彫り」は誕生したのです。さらに昨年より「光彫り」を不透明なア クリルでカバーし、その光のトーンを靄がかかったようにぼかした新シリーズを発表。「光彫り」の探 求は続いています。
本展では、高さ約 1.8m、幅約 5m の大作をはじめ、新シリーズの作品、横浜初出品の新作を含めた約 30 点を展示いたします。暗い会場の中で浮かび上がる光。「光彫り」によって描き出された美しく輝く 海や空、生き物や風景。画面の中に思わず引き込まれ、一瞬にして心が異空間へと導かれるでしょう。
「ゆるかわふう」の創り出す幻想的な光の世界をぜひご堪能ください。
プレス内覧会のお知らせ(事前申込制)
開催日時 11 月 11 日(金)午後 3 時~5 時 自由内覧 *受 付 午後2時45分~
*作家によるギャリートーク 午後 3 時~(約 30 分)
※開催時間内は、自由にご覧いただけます。※図録の贈呈はございません。
以下【ARTPR「ゆるかわふう展」内覧会申込フォーム】よりお申し込みください。
申込締切:11 月 10 日(木)
https://www.artpr.jp/sogomuseum/event_preview/entry/172/180
1|
■開催概要
展覧会名 会 期 開館時間
主催 後援 企画協力 協賛 入館料
会場
▶Twitter ▶HP
そら
光の芸術家 ゆるかわふうの世界 宇宙の記憶 2022年11月12日(土)―12月25日(日) *会期中無休
午前 10 時~午後 8 時(入館は閉館の 30 分前まで) ※そごう横浜店の営業時間に準じ、変更になる場合がございます。
そごう美術館、毎日新聞社 神奈川県教育委員会、横浜市教育委員会 TNC プロジェクト
デュポン・スタイロ(株)、(株)そごう・西武 事前予約不要
一般 1,200(1,000)円、大学・高校生 1,000(800)円、中学生以下無料 *消費税含む。
*( )内は、前売および以下をご提示の方の料金です。
[クラブ・オン/ミレニアムカード、クラブ・オン/ミレニアム アプリ、セブンカード・プラス、セブンカード] *障がい者手帳各種をお持ちの方、およびご同伴者 1 名さまは無料でご入館いただけます。
*前売券は、2022 年 11 月 11 日(金)まで、そごう美術館またはセブンチケット、ローソンチケット、イープラス、
チケットぴあにてお取り扱いしております。
そごう美術館(横浜駅東口・そごう横浜店 6 階)
郵便番号 220-8510 横浜市西区高島 2-18-1 電話 045(465)5515[美術館直通]
@sogomuseum
https://www.sogo-seibu.jp/common/museum/
※新型コロナウイルス感染予防に関する対応につきまして、ご理解・ご協力を賜わりますようお願い申しあげます。
※ご入館前に、そごう美術館ホームページ・会場入口掲示の「ご入館の際のお願い」をご確認ください。 ※展覧会・イベントの中止や延期、一部内容が変更になる場合がございます。 ※最新情報は、そごう横浜店・そごう美術館ホームページをご確認ください。
■関連イベント
「作家によるギャラリートーク」※事前予約不要
日にち:11 月 12 日(土)、13 日(日)、20 日(日) ※12 月の開催日程は決まり次第 HP にてご案内します。 時 間:1午前11時~ 2午後2時~ (約30分) 各日2回開催
場 所:そごう美術館展示室内
参加費:無料(別途展覧会入館料が必要です)
■ゆるかわふう 作家プロフィール
発泡断熱材「スタイロフォーム」を使用した世界初のオリジナル技法「光彫 り」を考案。絵画でも彫刻でも映像でもない新ジャンルアートのパイオニア として注目されている。神奈川県湯河原町を拠点に作品を制作。日本テレビ 「ヒルナンデス」、読売テレビ「ミヤネ屋」 、NHK「おはよう日本」、フジテ レビ「めざましテレビ」など、テレビ出演多数。
1980 年大阪府出身。東京藝術大学美術学部建築科卒業、同大学院芸術学(美 術解剖学)修了、同大学院美術研究科教育研究助手を経て現在に至る。 https://www.yurukawafuu.com/
2|

■展示構成 【海エリア】
クジラやウミガメなど海で暮らす動物の姿を描いた作品を展示。 断熱材の素材そのものが持っている色彩を活かして、青色にかがやく海の 世界を表現しています。大きな身体をもった生き物がフワッと浮かんで、 画面の中からこちら側に迫ってきます。哺乳類の先祖はかつて太古の海で 暮らしていました。私たちの遠い故郷ともいうべき青い海の世界が画面い っぱいに広がります。
【羽衣伝説エリア】
月、天女、白鳥、松など、羽衣伝説をテーマにした作品を展示。 空から地上に舞い降りて水浴びをしている天女の姿に心を奪われた男性が彼女の 羽衣を隠してしまう…といった主旨の物語は、日本だけでなく世界中に存在しま す。数ある同様の物語の中で、天女と白鳥はしばしば同一視されます。 天界と地上を繋ぐ神話の世界が、荘厳な雰囲気を漂わせながら美しく描かれてい ます。
【空エリア】
作家が考案したオリジナル技法「光彫り」をさらに発展させて制作した新シリーズを 展示。 種類の異なる複数の断熱材を組み合わせて、時間や季節によって変化する色とりどり の空を緻密に表現しています。無限の奥行きをもった壮大な空の景色が小さな額縁の 中に収まり、美しい光のグラデーションとなって私たちに届きます。
【その他】
■本展のお問い合わせ
そごう美術館 Tel. 045-465-5515 / Fax. 045-465-2298
学芸担当 二宮 kazue-ninomiya@sogo-seibu.co.jp
広報担当 三瓶 hiroyuki-sampei@sogo-seibu.co.jp ※メールをお送りいただく際は、担当 2 名宛にお願いいたします。
横浜に停泊している飛鳥IIを モチーフにした新作を初公開。
オレンジ色の断熱材を
使用した作品。
3|

■広報用貸出画像
横浜展イメージ画像 (作品と写真の合成)
《極北の空》 2021 年
縦 90cm×横 120cm
《Deep Current》 2019 年
縦 183cm×横 360cm
制作の様子(1)
ゆるかわふう
《YOU GOT WATER 01》
《YOU GOT WATER
01》(部分)
《I’m flying》 2022 年
縦 55cm×横 85cm
《約束の地へ》 2017 年
縦 182cm×横 450cm
《The Birthday 0000/01/01》 2021 年
縦 90cm×横 60cm
制作道具
展覧会チラシ(裏)
2015 年
縦 182cm×横 550cm
《うたかたの夢》 背後の照明を消した《うたかたの夢》 2020 年
縦 180cm×横 450cm
《天の羽衣》 背後の照明を消した《天の羽衣》 2021 年
縦 180cm×横 360cm
制作の様子(2) 制作の様子(3)
B3 ポスター 展覧会チラシ(表)
4|

■作家による「作品解説」
《YOU GOT WATER
01》2015 年
縦 182cm×横 550cm
たまたま友人と行ったギャラリーのオーナーに、「地域のアート イベントに参加してみないか」とのお誘いを受けて制作した作品 です。この時は技術的なことは何も分からず、額縁の作り方、LED 照明装置、断熱材を彫る道具など、すべてが手探りの状態でした。 電動ドライバーの先にワイヤーブラシを取り付けて削ったり、半 田ごての熱い棒で溶かして線を引いたり、シンナーで溶かしたり して光の陰影を表現しました。断熱材の背後から白い LED 照明
を当てることで、鮮やかな色彩が浮かび上がります。床や壁の裏側など、普段は人目に触れない建築資材から、 このような美しい光が現れることに感動を覚えました。 クジラは音を使って海底の形を把握したり餌を探したりします。そして何百キロ先まで届く声で仲間と会話し ます。あるクジラは北極圏で餌を食べ、子育てのためにハワイ近海までやってきます。「どうして迷子になら ないのか。」素朴な疑問でした。私はクジラそのものの姿よりも、クジラが見ている世界に興味があります。 視点を変えることで、私の感覚がより大きく広がるような気がするのです。
《Deep Current》2019 年
縦 183cm×横 360cm
これまでとは違った新しいことに挑戦した作品です。1 つ目は、 「吸い込む作品」を作るということです。これは私の持論ですが、 アート作品には「吐き出す作品」と「吸い込む作品」の 2 種類が あると思っています。作家自身の強い主張が、画面からこちらに 飛び出して鑑賞者に迫ってくるような作品が「吐き出す作品」。 それとは逆に、背景の余白や、奥行きなど、鑑賞者が画面の中に
思わず吸い込まれていくような作品が「吸い込む作品」。そういう意味で、私も画面の中に広大な空間を創出 して、観るものをその中へと引っ張り込むような作品を描いてみようと思い、2 つ目の挑戦として作品の間に フレームがない一枚の大きな額縁を制作しました。険しい山岳を超えていく二羽の白鳥と、大空に輝く天の川 銀河を描いています。星に見せるために開けた穴は、大きさや角度、深さに変化を与えているので、見る角度 によって多様な光り方をします。山岳と宇宙の間に薄い大気の層を表現しています。この作品の本当の主役は、 大気であり、奥行きであり、空間であり、目には見えない広がりそのものなのです。
5|

《うたかたの夢》2020 年
縦 180cm×横 450cm
テレビ番組の出演がきっかけでホッキョクグマを描くことになり、取材 のために静岡県の日本平動物園に行きました。動物園に行くと子供を連 れた家族や、カップルがいつも楽しそうに笑っています。子どもたちは 野生の血が騒いでくるのか、動物以上に元気になってはしゃぎ回ります。 動物園の中は難しい顔をした人や怖い顔をした人、悲しい顔をした人が 誰一人いません。「幸せだから動物園に行くのか。動物園に行くから幸
せなのか。」人間もまた動物です。人工的な都市の中で生きる私たちが少しだけ野生に帰ることができる場所 が動物園なのです。 さて、日本平動物園にいたホッキョクグマのロッシー君はロシアのレニングラード動物園生まれ、バニラちゃ んはタイのサファリワールド生まれだそうです。つまり、2 頭とも極寒の厳しい大自然で生きたことはありま せん。ロッシー君はずっと水槽の中でバク転をして同じ動作を何度も繰り返していました。目を瞑ってひたす ら泳ぎ続ける彼の姿は、どこか別の世界を夢見ているかのようでした。もしかしたら細胞に刻まれた古い記憶 が、北極圏の真っ白な雪原を彼に見せているのかもしれないと思いました。
うたかたの夢のように。
《極北の空》2021 年
縦 90cm×横 120cm
親の帰りを待つホッキョクグマの子供を描いた作品です。過去に描いたホッキョ クグマの大作品と対になっています。 極寒の世界に生きるホッキョクグマの姿を見る度に、「なぜ、あんなに過酷な環境 で生きることを選んだのだろう。」と不思議に思うことがあります。厳しい環境だ からこそ天敵がおらず、餌を奪い合うライバルもいなかったからなのでしょうが、
それだけではないように思います。哺乳類の親は子供が生まれてからひとり立ちするまでの長い期間、大切に 育てます。親と子の絆が強いからこそ、全てが凍ってしまうほど寒い場所でも生き残ることができるのです。 その絆は「愛」とも言います。私たちにとっては当たり前すぎるこの「愛」は、全ての生物にとって普遍的な ものではありません。それは私たち哺乳類が生き残るために獲得した能力であり、死なないための命綱なので す。極北の空の下で逞しく生きるホッキョクグマの姿を描きました。
6|

《約束の地へ》2017 年
縦 182cm×横 450cm
過去に大海を泳ぐクジラの作品を描いたので、次は陸の動物を描い てみたいと思いました。断熱材を削って描く光彫り技法でどんな表 現ができるのか、その可能性の幅を広げたいと思ってチャレンジし た作品です。今回は情熱的で躍動的な作品にしようと思い、アフリカ の大地を駆け抜けるゾウの親子を描きました。ゾウを観察するため、 動物園に何度も通いました。巨体を支える強靭な足の骨格や、背骨に 支えられた丸い胴体、大きな頭を持ち上げる太い首を見ると「重力」
の存在を強く感じます。しわのある硬い肌質や、長いまつげが生えた目の表現にも苦労しました。 優しい目をした母ゾウと、楽しそうに走る可愛い子ゾウは、いったいどこに向かっているのか。何を目指して いるのか。作品が完成してからしばらく考えて、「約束の地へ」というタイトルにしました。オレンジ色の断 熱材に光を当てると、まるで黄金のように美しく輝きます。昔は襖に金箔を貼ったり、教会ではステンドグラ スを設けることによって神秘的な輝きを表現したりしました。いつの時代も人は光に魅せられ、光の先に希望 を抱いて生きてきました。「約束の地」は希望の象徴なのです。
《天の羽衣》2021 年
縦 180cm×横 360cm
羽衣をまとった天女が空から舞い降りてくる姿を描いた作品です。藤 田ニコルさんがモデルです。本格的な大作品として人間の女性を描い たのは初めてでした。この「光彫り技法」を最初に試してから 10 年 以上が過ぎて、やっとここまで辿り着いたかという感慨深い想いでし た。これまでもずっと人間を描いてみたいと思ってきましたが、技術 的にも私の心構えとしても高いハードルでした。人は表情だけで多く のことを語りかけます。特に目元と口元には気を使いました。削り過
ぎてしまうと修正がほとんどできない技法なので、少しずつ慎重に削っては遠くに離れて確認し、また少しず つ削ってという作業の繰り返しでした。肌は滑らかな艶がでるように丹念にヤスリで磨いています。遠くを見 つめる美しい瞳と、柔らかな口元、白い布をまとった麗しい姿に神秘的なものを感じました。 聖なるものが天から地上に舞い降りてくる光景を描いた作品は古くから世界中にあります。画面右上に描かれ たプレアデス星団(すばる座)の星々も、ギリシア神話を元にして描きました。仏教美術で描かれる『来迎図』 も、極楽浄土から阿弥陀如来が多くの菩薩たちを従えて地上へと舞い降りてくる光景を描いています。突き詰 めれば、「私は美しい光そのものを描きたいのだ」と自覚できた作品です。
7|

Series “The birthday”
これまでの技法をさらに発展させた新シリーズです。(全 5 点)この世界が誕生したばかりの混沌とした光の風 景を描いています。それは宇宙の誕生であり、空や海や大地の誕生であり、生命の誕生であり、そして「私」 という自我が生まれた誕生の日でもあります。「この世界に始まりはあるのか。」この哲学的な問いに対して私 たち人類はずっと考え、探求し続けてきました。ある時は神話として、ある時は物理学として、ある時は進化 論として、あらゆる角度から私たちは始まりの風景をいつも探し求めています。全てはビッグバンの光で始ま ったとされています。宇宙空間を漂うガスや塵が徐々に引き寄せられて集まっていき、やがて光り輝く星とな りました。このシリーズでは、まだ形を持たない雲のような霧が立ち込める原初の風景を描いており、やがて そこから生まれてくるであろうものの気配を孕んでいます。私たちは誰しもが子宮の中で胎児として育ち、や がて産道を通ってこの世に生まれてきました。小さな瞼をやっと開いて最初に見たおぼろげな光の面影は、母 の優しい笑顔だったのかもしれません。
《The Birthday 0000/01/01》 2021 年
縦 90cm×横 60cm
《I’m flying》2022 年 縦 55cm×横 85cm
本展にあわせて、大型旅客船「飛鳥II」が停泊する大桟橋の風景を描きました。よく見ると、冬の寒空の 中、1 人だけワンピースを着た女性がいます。夜なのに日傘までさしていて、風を受けて今にも飛んでいき そうです。その不思議な女性は、かつてこの横浜港から遠い異国の地へと渡っていった少女なのではないで しょうか。 人の人生はよく航海に例えられます。風に乗って大空を越えていく鳥のように、彼女はきっと自由になれた のです。
8|

■作家インタビュー
❶「ゆるかわふう」が光彫りの表現で大切にしていること
日本生まれの古くて新しい芸術を世界へ
「日本の空の青さ、海の青さなどの青の魅力、そして古くて新しいものを広めていきたい。」 「素材そのものは世界中で使われているものだが、光彫りだからこそ表現できるものがある。」
光彫り作品は、建築用断熱材(スタイロフォーム)や LED 照明といった工業製品を使って、宇宙空間や成層 圏、海中など、20 世紀になってから私たちが初めて見ることができるようになった世界を主に描いていま す。そのような現代の視点から眺める極限の世界は、油絵の具や岩絵の具などの旧来型の画材で表現するの はとても困難であり、スタイロフォームでしか出せない色の鮮やかさ、質感、奥行きや立体感を活かして作 品を制作しています。
また、光彫り作品は和室の襖絵のような額縁で構成され、光の陰影のみで描かれている点は水墨画を想わせ ます。スタイロフォームを使って海を表現するアイデアは、白砂を敷いて水を使わずに大海原を表現した禅 寺の枯山水庭園からヒントを得ています。
このように、日本人が培ってきた文化を継承しながら、工業製品を使って現代の視点から見た世界を描き、 古くて新しい日本の文化として、世界に発信していくことを目標にしています。
隠れた原石に光を当てる
「普段目にしない、気にしなかったものにたまたま光を当てたら全く違うものに見える、というものが好きで、 光彫りと名付けたのは、彫れば掘るほど光がでてきて宝探しのようだから。 断熱材は安くて使いやすく優秀だが普段人目にはふれない地味な素材。それがひと手間加えるだけで全く違う 魅力がでてきて輝きだす。この驚きが面白い。舞台に上がると急にスポットライトがあたり、まぶしく輝きだ す素材だと思う。素材のシンデレラストーリーである。」
茶人・千利休は、朝鮮半島で生活食器として身近に使われていた素朴な茶碗に目をつけ、「わびさび」という 概念を与えて、今までになかった価値を創造しました。また、20 世紀の現代美術の父とも言われるマルセ ル・デュシャンは、男性用便器にサインをして展示することで工業製品を美術作品に変身させました。
それまで見向きもされなかった日用品を別の視点から眺め、そこに新しく概念を与えることで、価値が大き く変わって輝き出すといったところに「アート」のダイナミズムがあります。スタイロフォームも、壁や床 の内側で断熱の効果を発揮していますが、普段は人の目に触れることもなく、製品に秘められた鮮やかな色 彩や、美術品としての価値も知られることはありませんでした。
私たちの価値基準のほとんどは、どこかの誰かが決めたものを鵜呑みにしているだけかもしれません。誰の 目にも触れず、粗雑に扱われていたものに光を当て、ひと手間加えるだけで突然それが輝き出す。それがア ートの魅力だと思っています。
9|

❷「ゆるかわふう」とスタイロフォーム
スタイロフォームを使うことになった経緯
学生時代に建築を学んでいたため、「スタイロフォーム」を使って建築模型を作る機会が多くあり、私に とって「スタイロフォーム」はとても身近な材料でした。その後、趣味でダイビングをするようになり、 次第に海中の青い世界に魅了されていきました。海に潜るたびに、そこで体験した世界を地上で再現し たいと思うようになりましたが、従来の画材ではうまく表現できませんでした。そんな中、「スタイロフ ォーム」に背後から白い光を当ててみると、とても綺麗な青色が浮かび上がり、「これは水の表現に使え る」と思ったのが作品を作り始めたキッカケです。
作品のテーマや技法
海の風景や、宇宙、静寂に包まれた夜の世界を生きる動物の息吹をテーマに描くことが多いです。スタイ ロフォームは青色が美しいだけでなく、絵の具では表現できない透明感のある奥行きを表現することが できます。私が考案した「光彫り」は、「スタイロフォーム」に凹凸を付け、その厚みの違いによって光 の明暗を作り出すオリジナル技法です。「スタイロフォーム」を画材として利用し、思うように描けるよ うになるまでには、専用の額縁制作から道具の選定まで、かなりの試行錯誤がありました。
スタイロフォームの魅力
断熱材は、地球の自然環境を守り、私たちの暮らしをより快適にするために欠かすことのできない大切 な建材です。「スタイロフォーム」から発せられる鮮やかな青色は、広い海に覆われた水の惑星、地球の 色そのものです。デュポン・スタイロでは、ブランドカラーであるこの青色を「スタイロブルー」と呼ん でいるそうです。「スタイロフォーム」が放つ美しい青い光には、このかけがえのない私たちの惑星をよ り良い未来へと変えていこうとする願いが込められているようにも感じます。 壁の内側や地中に隠れて、普段は見ることが少ない「スタイロフォーム」ですが、「スタイロブルー」に 込められた理念とその美しさを、美術作品というかたちにして、国内外の多くの方々にご覧いただき、喜 んでもらいたいと考えています。