
【取材記事】みて、ふれて、きいて。身近に感じる横浜港の今昔
横浜みなと博物館がリニューアルオープン!!
横浜港をテーマにした初めての博物館「横浜みなと博物館」が、2022年6月28日にリニューアルオープンしました。約1年間の休館を経て、国内初の常設体験型VRシアターを備えた新生・横浜みなと博物館の魅力に迫ります。

桜木町、みなとみらい、馬車道の各駅から徒歩約5分。
横浜みなと博物館は、みなとみらい21地区の日本丸メモリアルパーク内、帆船日本丸の目の前にあります。横浜マリタイムミュージアム(1989年開館)が前身で、横浜みなと博物館として横浜開港150周年の2009年にオープンしました。
「横浜港を知り、考え、 楽しむことができる『市民のための博物館』」というコンセプトや、展示テーマ「歴史と暮らしのなかの横浜港」は変わらず引き継がれています。
それから10数年を経て、最新の展示機器を取り入れて、楽しく体験しながら横浜港にふれ、学べる施設として、今回のリニューアルオープンを迎えました。
今回、リニューアルした横浜みなと博物館の魅力を、学芸員歴17年目になる三木綾さんと、広報担当の久保井雅子さんにお聞きしました。


歴史ゾーンで横浜港の歴史を身近に
館内の常設展示は、大きく「横浜港の歴史」「横浜港の再発見」と二つのゾーンに分けて展示されています。
まず紹介してもらったのが、床面にある横浜港の全景を写した衛星写真です。「港のふ頭の形が時代によって変わっていくことがわかります」と三木さん。
横浜港の最初の本格的な波止場「象の鼻」、大さん橋、新港ふ頭、さらに建設中の新本牧ふ頭まで、入港する船や貨物量の増加に伴って発展してきた横浜港。大型船に対応できるようにと築港される港の形状が変わっていくことが衛星写真で見てとれます。
続いて、「横浜港の歴史ゾーン」に行ってみました。

横浜港の歴史ゾーンでは、横浜港の歴史を、開港前後から現代まで「開港前後の横浜」「近代港の建設」「関東大震災と復興」「戦争と接収」「高度経済成長と港の整備」「コンテナ輸送時代の到来」「現代の横浜港」と七つの時代に分けて展示しています。
歴史というと堅い印象を持たれるかもしれませんが、船の模型や人力での築港に使われた道具などさまざまな資料を通して、歴史に親しみが湧きます。




今回のリニューアルでは、最新の展示機器を館内の各所に導入しているのが特徴で、ここは歴史ゾーンの見どころのひとつ。1854年のペリー来航の様子が、精緻な船の模型と、アニメーション仕立ての映像で学ぶことができ、歴史の転換点をダイナミックな映像とともに体感できます。
「ペリー艦隊の8隻の模型がすべてそろっているのはここだけです。」と三木さんは教えてくれました。日本の押送船もそばにあり、大きさの差が一目瞭然。当時の黒船来船の衝撃の大きさを感じ取ることができます。

当時のペリーの中国海域、日本遠征の公式記録です

ほかにも、設計図面から精巧に作られたという船の模型が多数展示されています。



操縦体験で港の仕事にふれる

かつては100戸ほどの集落だった横浜村時代を経て、1859年の開港以来、進化を続ける横浜港。どんどん増えていく貨物量に対応するために港を拡大し、東洋一の港へと成長していく様子が、展示を通して学びとれます。
関東大震災と戦争・戦後の接収、そして高度経済成長期へと、港の復興や拡大を支えたのは、港で働く人たちの存在です。人力からコンテナ輸送へと、時代を追うごとに、船の形、働き方、そして港の形が変わっていく様がわかります。

横浜港のクレーン技術は世界最速だそう。
港の重要な仕事のひとつ、コンテナ貨物の積み荷下ろしをするガントリークレーンの操縦体験のコーナーが新たにできました。
バーチャル画面で高さ50メートルのガントリークレーンからの貨物の上げ下げを体験してみると、思ったよりずっと難しい!何度もやり直してようやく一つのコンテナを降ろすことができました。プロは1分間に1個という速さで操縦しているそうで、港湾物流を支える技術の高さを体感しました。
みなさんもチャレンジしてみては。
VRシアターで横浜港の魅力を体感!!
続いて「横浜港の再発見ゾーン」では、横浜港のふ頭、帆船日本丸と船員養成、埋立と築港の技術と歴史など、横浜港のことをより深く知ることができる展示となっています。
久保井さんがリニューアルの目玉と話すのが、体験型VRシアター「みなとカプセル」です。
このコーナーでは、床から天井までの全画面で、変わりゆく横浜港やみなとみらいを体感することができます。迫力ある映像は、周辺や大海原をまるで鳥になったような気分で楽しめます。


「足元にある技術を知ってほしい」と三木さんが力を入れるのは、埋め立てと築港の展示です。
埋め立て工事を支える作業船や、日本初の近代ふ頭という新港ふ頭ができるまでの工事の様子などが、写真やイラストを交えてわかりやすく解説されています。




横浜臨海部の地形を再現した模型に映像を投影し、江戸時代から現在までの埋立の移り変わりを紹介している
人気の操船シミュレーターもリニューアル
また、操船シミュレーターはリニューアル前から人気の体験コーナーです。
「映像などスペックをあげて、よりリアルに体験できるようになりました」と三木さん。横浜港をリアルに再現した映像を見ながら、本物さながらの船の操縦体験ができます。

実際の訓練でも使われている、大人気のシュミレーター。
館内では、歴史だけでなく、現在もなお発展を続ける“横浜港の今”にもふれることができます。
ダイヤモンド・プリンセスなど最新の大型クルーズ客船が乗り入れる観光拠点であり、新本牧ふ頭の整備も進み、人とモノとが行き交う横浜港。一方では、地震や高潮などの災害に備える港湾づくりや、脱炭素の推進など、環境面での取り組みも進んでいます。
このほか、キッチンを再現し生活と港のかかわりを学ぶことのできるコーナー「わたしたちのくらしと横浜港」は、原材料が輸入されている食品の模型から、貿易や港の働きを考えられる工夫がされていて、暮らしと港のつながりがぐっと身近に感じられる展示です。
SNS映えしそうなフォトスポットも新たに用意され、これまで以上に幅広い世代に楽しめる博物館になりました。



柳原良平さんの展示もリニューアル
横浜みなと博物館のリニューアルに伴い、館内の「柳原良平アートミュージアム」(2018年開館)もリニューアルしています。
アンクルトリスの広告デザインや船の絵で知られる柳原良平の作品、約5000点を所有する同館。「今回のリニューアルでは、柳原良平の真骨頂である切り絵の展示を多くしています。横浜に暮らし、横浜を愛した柳原の作品は、横浜港を歩き続けていないと描けない絵がたくさんあります」と三木さんは魅力を語ります。





「港って面白い!」のきっかけに
「港は日々、目の前で動いているんですよね。積み重ねてきた歴史資料に加え、常に更新されていく。新しいものと古いものとの共存がここの魅力です。港がどんな所か知らない方も多いかもしれませんが、実は生活に関わることばかりなんです」と三木さん。
「観光客の方にも、市民や地元の子どもたちにもぜひ訪れてほしいです。港って面白いなって感じるきっかけになるといいですね」と話してくれました。
久保井さんは「VRやガントリークレーンなど最新機器の展示をきっかけに、たくさんの方に来ていただけたらうれしいです。そこから今と昔のみなとみらいを、もっと深く知っていただけたら」と期待を込めました。
開港からの歴史とともに、進化の真っただ中にある横浜港を体感できる横浜みなと博物館から、柳原良平アートミュージアム。そして外へ出れば1898年に竣工し、国の重要文化財に指定されている第一号ドックと、「太平洋の白鳥」と呼ばれた帆船日本丸があり、港の魅力が詰まった日本丸メモリアルパーク。
港の風を感じながら、港の今昔を学びにでかけてみませんか?
横浜みなと博物館(柳原良平アートミュージアム)
横浜市西区みなとみらい2-1-1
市営地下鉄・JR根岸線「桜木町駅」、みなとみらい線「みなとみらい駅」「馬車道駅」から徒歩約5分
https://www.nippon-maru.or.jp/port-museum/
開館:10:00~17:00(月曜休館)