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取材記事

【取材記事】横浜美術館が3年ぶりにリニューアルオープン!! 第8回横浜トリエンナーレ(3/15-6/9)のメイン会場に

横浜美術館が3年間の休館を経て、2024年3月15日にリニューアルオープン。こけら落としは、現代アートの国際的な祭典、第8回横浜トリエンナーレです。
これまで以上に社会や地域に開かれ、多様性を尊重したリニューアル後の美術館の魅力とともに、「野草:いま、ここで生きてる」を全体テーマにした横浜トリエンナーレについて取材しました。

横浜美術館は、国立代々木競技場の設計で知られる建築家・丹下健三氏の設計によって1989年に開館しました。みなとみらい地区の中でも、早い時期に建てられた建物の一つです。グランモール公園を前に、ファサードを広げた佇まいが印象的な美術館です。

2021年3月から、リニューアル工事のため休館し、みなとみらいが事業着工40周年となった今年度、新しい姿になりました。

【横浜美術館】淡いピンク色の看板が公園口、ぴあアリーナ側の西口などに立ち、美術館や企画展へと誘います (撮影:新津保建秀)

よりひらかれた美術館に

今回のリニューアルにあたっては、「みなとが、ひらく」をミュージアムメッセージに掲げています。

それに続く文章には、「美術館は、港のようだと思います。」とはじまり、「横浜美術館は、あなたという港がひらく場でありたいと思います。」と結ばれています。

そんなメッセージを発する横浜美術館は、どのように生まれ変わったのでしょうか。

館内に一歩足を踏み入れると、目の前に広がる大空間・グランドギャラリー。横浜美術館を象徴するこの空間が、よりひらかれた場になりました。

ガラス張りの天井のルーバー改修工事によってルーバーを開閉できるようになって自然光によるやわらかな光が入り、季節や時間の移ろいによって空間の見え方に変化がもたらされます。

グランドギャラリーを中心に「じゆうエリア」が新たに誕生し、2025年2月の完成をめざしています。無料で誰でも自由に入ることができ、作品を眺めながらカフェの飲み物を飲みながらおしゃべりを楽しんだり、小さなお子さんと一緒にくつろぐこともできるようになります。

ガラスの天井のルーバーから日差しが入り、床に映る影の変化も楽しめます(撮影:新津保建秀)


2025年にかけて順次完成していくグランドギャラリー及びじゆうエリアのイメージ。建築にもともと使われていた御影石の色から抽出された薄いピンクなどの5色がキーカラーに (イラスト:乾久美子建築設計事務所)

リニューアルにおけるデザインプロジェクトをメインで担当してこられた横浜美術館の坂口さんに、改修にあたっての話を伺いました。

「グランモール公園からひと続きの屋内広場のような感覚で、ゆっくりくつろげる場として構想しました。子連れの方や、さまざまな障がいのある方も集うことができ、だれもが居心地よく過ごせる雰囲気づくりを大切にしたいと考えてきました」と坂口さん。

子育て世代にやさしい美術館を目指し、授乳室を増やして調乳器を導入し、お子さんが泣いたときにも居場所になるようなスペースを設けるのだそう。

横浜美術館 経営管理グループ
山本紀子さん(左)、坂口周平さん(右)

美術館の建物には、もともと丸「○」と四角「□」のデザインがあしらわれており、「じゆうエリア」もまた、新たにオリジナル什器の丸や四角のテーブルや椅子を配し、統一感があってひらかれたイメージを大事にしているのだそうです。

美術館の再オープンを記念してつくられたリニューアルロゴは、既存のマークの四角の隣に、同じ面積の丸が並びます。『もともと存在する形が変化して、ひらいていく。』このことは、横浜美術館がリニューアルで目指していることの象徴でもあるそうです。

このほか、休館前は3階にあった美術情報センターが、ロビーフロアに移って入りやすくなりました。「美術図書室」と名称も変更し、アートに関する絵本や専門書まで、だれでも無料で利用できるのだそう(2024年11月開室予定)。さらに、グランモール公園「美術の広場」に面したオープンスペースにもオリジナルデザインのテーブルやスツールが設けられる予定で、これまで以上に街とつながる施設になっていくことでしょう。
多目的トイレやエレベーターの増設などバリアフリー機能向上工事も行われました。

  • いずれも「じゆうエリア」2025年2月完成予定 イメージ図(イラスト:乾久美子建築設計事務所)

横浜美術館の広報担当、山本さんは「これまで足を運んだことのない方にも、一歩でも足を踏み入れていただきたいです。公園のように、お散歩途中に中を通り抜けてもらうだけでもうれしいですし、だれでもふらっと入れるような場になれば」と話します。

また、現代美術の作品の大型化に伴い、展示室の天井を高くしたり、LED照明に変えることで、より展示にふさわしい空間に生まれ変わりました。美術館として展示作品を見せる機能も、これまで以上にアップしているのです。

リニューアルした空間で現代アートの祭典を

そんな新しい舞台を最初に彩るのが、世界各国から93組の作家が出展して3年ぶりに開催される横浜トリエンナーレです。

北京を拠点に国際的に活躍するアーティストとキュレーターのリウ・ディンとキャロル・インホワ・ルーをアーティスティックディレクターに迎えました。世界中のアーティストが、混沌とした今の社会をアートで表現する事をどう試みているのか、その挑戦を新たな扉を開いたばかりの横浜美術館で堪能できます。

総合ディレクター、アーティスティック•ディレクター、来日されたアーティストの皆様

2011年の第4回から携わり、アーティストの招聘からコンセプトメイキングまで全体の調整役を担っている、横浜美術館所属で横浜トリエンナーレ組織委員会事務局の一員である帆足さんに、美術館のリニューアルにともなう今回のトリエンナーレの特徴をお聞きしました。

「吹き抜けのグランドギャラリーは天井から自然光が入るようになっただけではなく、天井から作品を吊り下げることができるようになったことで、今までできなかった展示ができたり、より作品を魅力的に見せることが期待できます」。

グランドギャラリーの天井から吊るされた赤い浮遊物のような立体作品は、まさにリニューアルによって実現した展示です。

横浜美術館 学芸グループ長兼国際グループ長 主席コーディネーター 帆足亜紀さん

「見る方がこの作品をどう知りたいかを想像しながら、この作品が何なのか手がかりとなるように、解説文を工夫しています。お客さまに、美術っていいなと思ってもらえるようになれば」と帆足さん。
アートビギナーな方でも、鑑賞を楽しめるような工夫をされているそうです。

また、親子の来場者向けには「こどものアートのためのひろば『はらっぱ』」という、気軽にワークショップに参加したり、休憩できるスペースを設けています。(横浜トリエンナーレ期間限定)

オスロ、ニューヨークを拠点に活動するサンドラ・ムジンガの立体作品 《そして、私の体はあなたの全てを抱きかかえた》2024年
作品を観る手助けをしてくれる解説文。できるだけ専門用語を使わずに、平易な言葉で語られている

今回のトリエンナーレは、「野草:いま、ここで生きてる」というテーマで、100年前に魯迅が記した詩集『野草』から展示作品や作家の選定をしています。

「100年前の中国は動乱期にあり、魯迅はそれまでの価値観が崩壊する中で新しい文学を模索し、切り拓いてきました。魯迅のように、生活に根ざしながら、自分の人生をかけて考えてきた表現者たちが各時代にいます。100年前から今にいたるまで表現者たちがみな悩みながら何かしらを表現して、希望を見出す方法を考えてきたということを見ていただきたい」と帆足さんはコンセプトを語ります。

7つの章立てで展示が展開され、無料で入場できるグランドギャラリーでは最初の章として、テーマにもなっている「いま、ここで生きてる(Our Lives)」が展開されています。

生き方をアート作品で見せる

環境破壊や戦争、経済格差、ジェンダー……。
さまざまな課題を抱える現代社会において、「混沌とした世界の中で、個々人が主体的にどう生きるかということを、それぞれの作家が懸命に表現しています」と帆足さん。

グランドギャラリーに展示された、いくつか印象的な作品を紹介してもらいました。

オープングループ
《Repeat After Me》2022 (video still), Courtesy of the artists
 
ウクライナのオープングループによる映像作品。難民キャンプに逃れた市民を取材し、戦時下での市民の暮らしを伝える
ヨアル・ナンゴ
≪ものに宿る魂の収穫≫2024

北欧とロシア北部を移動する遊牧民「サーミ族」の暮らしをもとに、貨幣経済やグローバル経済とはまったく異なるライフスタイルを示す建築的な作品
ピッパ・ガーナー
《Human Prototype》2020, Courtesy of the artist and STARS, Los Angeles, Photo: Bennet Perez
 
カリフォルニアで活動するトランスジェンダーの作家が、性差によって規程される社会を批判的に表現した彫刻作品

「若い人が希望を持ちづらい世の中ですが、どの作家さんも生活の中での自分の切実な課題を表現しています。そのリアルさや、こういうことを考えている人たちがいる、ということを感じ取ってもらえたら。自分で少しでも変えてみよう、自分でも行動してみよう、と思ってもらえるといいですね」と話します。

グランドギャラリーは、無料で入場し観賞することができます。階段を上がった有料エリアの3階では、全7章のうちの5つの章立てに沿った作品が並びます。アーティストたちが、現代にいたるまで各時代で社会や自身と対峙しながら生み出してきた作品が、観る人にさまざまな感情を引き起こしていくことでしょう。

3階で魯迅が推進した日本や中国の版画、横浜美術館の所蔵品の写真・版画作品ほか、現代作家によるさまざまな表現が鑑賞できます。

  • 「第8回横浜トリエンナーレ」の展示風景

前回3年前はコロナ禍での開催となり、海外の作家は来日できなかったそうですが、今回は30名近くの作家が、日本での展示を楽しみに来日されています。

このほか、旧第一銀行横浜支店、BankART KAIKO、クイーンズスクエア横浜、元町・中華街駅連絡通路にも作品展示がされ、横浜美術館を起点として、街歩きを楽しみながら現代アートにふれられる体験が待っています。

港のように、誰でも立ち寄れるひらかれた場。
そんなコンセプトをもった新たな横浜美術館で出会うアートは、きっと訪れる人に新しい扉をひらいてくれることでしょう。
生まれ変わった横浜美術館にぜひ、訪れてみてください。

横浜美術館
横浜市西区みなとみらい3-4-1  
みなとみらい線「みなとみらい」駅から徒歩約3分
JR・横浜市営地下鉄「桜木町」駅から徒歩約10分
URL:https://yokohama.art.museum/

《リニューアルオープン後の予定》
2024年3月15日 リニューアルオープン、第8回横浜トリエンナーレ開幕
2024年6月9日 横浜トリエンナーレ閉幕後、展示替えのため休館
2024年11月 部分開館
2025年2月 全館オープン

第8回横浜トリエンナーレ「野草:いま、ここで生きてる」
会期:2024年3月15日(金)~6月9日(日)
休場日:毎週木曜日(4月4日、5月2日、6月6日を除く)
開場時間:10:00~18:00 *6/6~6/9は20:00まで開場。入場は閉場の30分前まで
開場:横浜美術館、旧第一銀行横浜支店、BankART KAIKO、クイーンズスクエア横浜、元町・中華街駅連絡通路
詳細は公式ウェブサイトから https://www.yokohamatriennale.jp/