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取材記事

【取材記事】鉄道開業150年!発祥の地 横浜・みなとみらいの鉄道遺構を訪ねて

横浜港開港が1859(安政6)年。それから13年後の1872(明治5)年、文明開化によって西洋の文化が暮らしに入ってきたころ、日本で初めての鉄道が新橋~横浜(現桜木町駅)間で10月14日に開業し、この日が「鉄道記念日」となりました。
今年は、鉄道開業150年。鉄道発祥の地である横浜では、鉄道に関するイベントが盛りだくさん!注目を集めています。

みなとみらいは新しい街ですが、実は街の歴史を伝える遺構も多くあるんです。鉄道発祥の地に誕生したギャラリーと、みなとみらいに残る鉄道の遺構を訪ねました。

鉄道発祥の地を歩く 

日本で最初の鉄道駅、初代横浜駅は現在のJR桜木町駅のある場所に設けられていました。2020年6月にできたJR桜木町駅新南口の改札を出てすぐの場所に、「鉄道創業の地 記念碑」があります。創業当時の横浜駅の駅舎、そして和洋のファッションが入り混じる人たちの姿が描かれていて、当時の様子が伝わります。

鉄道創業の地 記念碑
樹木のそばでさりげなく佇む
当時の時刻表や運賃も記されている
絵葉書に描かれた1910年頃の初代横浜駅(横浜停車場):横浜開港資料館蔵

初代横浜駅の開業から15年後の1887(明治20)年には、小田原の国府津駅まで路線が開通し、横浜駅は中間地点となります。この際に、折り返しのためスイッチバック方式を採り入れることとなり、その不便さから、1915(大正4)年に引っ越すことに。二代目横浜駅は、現在の高島町に作られ当時のレンガなど一部遺構が残っています。二代目は関東大震災によって焼失し、1927(昭和2)年に三代目でようやく今の横浜駅の場所に落ち着いたのです。

創業当時の蒸気機関車を間近に!

鉄道創業時の蒸気機関車を、「鉄道創業の地 記念碑」のすぐ隣、桜木町駅新南口に直結するCIAL(シァル)桜木町ANNEXの「旧横ギャラリー(正式名称:旧横濱鉄道歴史展示)」で見ることができます。
旧横ギャラリーは2020年6月、桜木町駅が日本で最初の鉄道駅、初代横浜駅であることにちなんで開設されました。鉄道創業時に運行していた110型蒸気機関車をはじめ、中等客車のレプリカやパネル展示、当時の街並みを再現したジオラマなどを無料で楽しむことができます。

CIAL桜木町の宇津木さんに旧横ギャラリーの見どころを伺いました。

国道16号沿いのCIAL桜木町ANNEX。外からも蒸気機関車が見える
株式会社横浜ステーシヨンビル シァル桜木町 宇津木 亮平さん
「子どものころは鉄道よりウルトラマン派でした」という宇津木さんですが、旧横ギャラリーの担当となり「鉄道は歴史を知れば知るほど楽しいです」と話す

「一番の見どころは、旧横ギャラリーのアイコンにもなっている110形蒸気機関車の展示です。英国のヨークシャー・エンジン社の製造で、1872(明治5)年の鉄道創業時に『10号機関車』として新橋~横浜間を運行していた、日本で最も古い機関車の一つです。
こちらの機関車は、鉄道創業当時に走っていたものと全く同じものです。神戸、北海道など各地で活躍したのちに廃車となり、その後、鉄道記念物として2019年まで青梅市で展示されていました。旧横ギャラリーのオープンに合わせ、大宮工場で修復し、2020年にこの地に戻ってきました。
連結されているのは、レプリカの中等客車です。この客車は、残っていた写真や浮世絵などを参考にしながら、一部の材料は英国から取り寄せて再現したものです」と宇津木さん。

漆黒に艶やかな赤、ゴールドの配色が重厚感あふれる
110形蒸気機関車

車両の中は、イベント時にのみ入場できるそうで、今回は特別に中を案内していただきました。ワインレッドのシートに、艶やかなオーク材のコントラストが美しい車内。天井のランプはアルコールランプ風の淡い明かりで、当時の雰囲気がたっぷりと感じられます。

中等客車のレプリカ
イベント時には、特別に客車内に入れるそう

隅々までこだわったこの旧横ギャラリー。「車両に目がいきがちですが、足元や天井にも目を向けてみてくださいね」と宇津木さん。

当時のプラットホームをイメージしたデザイン
天井の照明も、当時の駅舎内に設置されていたものを再現している
音に合わせて光が機関車を照らす演出が!昼と夜の2パターンがあるそう
客室内の椅子の脚、湾曲した天井などは創業当時から木造部は日本の職人に組み上げられたとされており、高い再現度とこだわりの造りとなっている
蒸気機関車と客車の緩衝器は英国の木工職人による制作、双頭レール(次の写真)は英国から輸入したものを使用
片方が消耗した際に裏返して使用できる特別なつくりの「双頭レール」。実際に裏返して使用したことはないそう

蒸気機関車では、毎時0分に始まる、音と光の演出も見どころです。出発する鐘や汽笛の音が響き、まるで当時の駅にいるかのような臨場感を味わえます。

創業当時の横浜駅にタイムスリップ

続いて、初代横浜駅の風景を模したジオラマ展示を案内してもらいました。
ジオラマは、この場所に存在した「横浜停車場」(現桜木町駅)の風景を模しています。

今から150年前の鉄道創業当時は、野毛側に江戸時代からの生活文化の名残もある中で、機関車や客車が走り、モダンな建築の駅舎がそびえ立ち、洋装の職員や乗客が行き交うこの場は、西洋文化が発展していく象徴的な場所だったそうです。ジオラマで展示されている人形の衣装も当時のように和洋折衷織り交ぜられたものが再現され、丁寧に作り込まれています。
この展示は、週末になると子どもたちが並んでみている人気の展示なのだそう。さらに、一定の時間がたつと、照明が朝や夕方、夜の光に変わり、1日の変化を楽しめます。

当時の横浜駅と同じ向き、同じ位置に設置され、今の風景と重ねて眺められる
横浜駅前の様子も再現され、華やかな洋装に身を包んだ人々が行き交う

他にも、鉄道開業にまつわる歴史の展示があります。エドモンド・モレルら、日本での鉄道の発展に貢献した人物の紹介や、鉄道敷設までの苦労や工事の様子を知ることができます。
また、当時の駅員さんの仕事や制服が紹介されていたり、歴代のおもちゃの展示があったりと、さまざまな展示で鉄道の歴史と文化を紹介しています。

海を埋め立てて造られた鉄道建設・工事の記録
明治政府や当時の人々、式典などの様子
当時の人々を驚かせた、海外から輸入された進んだ技術の紹介
当時の官員さんや舎内の様子、制服などが紹介されている
歴代のおもちゃ、鉄道の本、教科書などの展示コーナーはお子さんでも楽しめそう
初代横浜駅の内部模型
スターバックスコーヒー CIAL桜木町ANNEX店

鉄道の歴史を楽しめるのは旧横ギャラリーだけではないのです。2階には、鉄道開業の地にちなんで、インテリアにさまざまな仕掛けがほどこされた特別なスターバックスがあるのです。

壁面には明治時代の鉄道路線図や錦絵など、そこかしこに鉄道の歴史を感じられます。また、“創業”にちなんで、スターバックスの1号店、シアトルのパイクプレイス・マーケット店を描いた大きな絵が飾られています。窓際の席からは、1階に展示された機関車を見下ろすことができ、くつろぎながら鉄道の歴史に思いをはせてみては?

店内床面には、列車が走る双頭レールの断面が!

「この施設全体で鉄道の歴史を楽しんでいただけたらと思っています。地元の方はもちろん観光に来られた方にも、ここが鉄道発祥の地であることを知っていただきたいですね。電車のことを深く知らなくても、楽しめると思います」と宇津木さんが嬉しそうに話してくれました。

みなとみらいの鉄道の遺構スポットへ

鉄道発祥の地が今に伝える息吹を感じた後は、みなとみらいに残る鉄道の遺構スポットを歩いてみました。
歴史を解説しながら案内してくれたのは、横浜市歴史博物館の小林さんです。

横浜市歴史博物館 学芸員 小林光一郎さん
横浜市歴史博物館で2022年9月25日まで開催していた企画展「みんなでつなげる鉄道150年」を担当

1859(安政6)年の開港以来、生糸の輸出を足掛かりに人、モノ、文化の交流の拠点として国際的な大都市として発展していく横浜港。
世界遺産として知られる群馬県の富岡製糸場など、日本各地の養蚕地や製糸場からの生糸が横浜港から世界に送られていました。物流を支えるため、横浜港の周りには、貨物線として臨港線がいくつも敷設されたのでした。

1960年代になると、トラック輸送の台頭や海上貨物の主力となっていたコンテナ輸送に鉄道が対応しなかったことなどから、臨港線を使った輸送は衰退していったそうです。1987(昭和62)年の国鉄民営化とともに、横浜港の臨海鉄道のほとんどが廃線となりました。

海の上を歩く!?廃線跡、汽車道

臨港線の名残を感じられる廃線跡がみなとみらいにはいくつも残っています。その代表的なスポットが汽車道です。

現在、桜木町と新港地区を結ぶ遊歩道として、当時の線路や橋梁を残して整備されている汽車道。海風を感じながら、横浜ランドマークタワーや大観覧車コスモクロック21といった、みなとみらいの代表的な風景が臨めます。

「貨物列車が走っていたわけですから、当時の人は歩けなかった道。海の上をこうして歩くことは、今の時代だからこそできる経験です」と小林さん。

汽車道 約500メートルほどの遊歩道として整備されている
大正初期の汽車道付近の風景 絵葉書「横浜弁天橋ヨリ灯台ヲ望ム」 横浜開港資料館蔵
現在の風景 都市の街並みの中に佇む橋梁は、貨物列車が走っていた当時の風景を想像させてくれる

1号~3号までかかる橋梁が汽車道らしい風景です。このうち1号、2号は1907(明治40)年にアメリカン・ブリッジ社によって製作された歴史ある建造物です。

「橋梁も見どころですが、汽車道から続く線路をまたぐように建設されたホテル、ナビオス横浜の開口部は、赤レンガ倉庫をのぞくように、景観を意識して建築されています。当時の線路を残して街の景観を守っているのが粋ですね」と小林さん。

そう説明を受けて、ナビオス横浜のアーチのような開口部から広がる眺めを見ると、この景観を残そうとする設計者の想いを感じ、いっそうこの景色が貴重なものに思えます。

船員さんが宿泊する、横浜国際センター「ナビオス横浜」。もちろん一般の人も利用できます

横浜赤レンガや象の鼻パークで見つけた鉄道の名残

現在の汽車道や赤レンガパークなどに残る線路跡は、臨港線のものです。1911(明治44)年に開業し、新港埠頭内には「横浜港荷扱所」として駅ができ、翌年にはクイーンの塔として知られる横浜税関前まで線が延長し、「税関線」と呼ばれました。

大正時代には、貨物用の線路を使って「ボートトレイン」と呼ばれる臨時旅客列車も走るようになったそうです。この線路跡は、赤レンガ倉庫の前にも見られます。当時の名残として、ボートトレインの旅客用プラットホームが残されています。「ホームは実際より短くされ、屋根も付けられていますが、ここからサンフランシスコ航路が発着していた1920年ごろの様子が感じられます」と小林さん。

ボートトレインが発着した旧横浜港駅プラットホーム。海上保安資料館の向かいにある

戦後になると、新港埠頭から山下埠頭まで臨港線の延長が計画され、1965(昭和40)年に「山下臨港線」が開業しましたが1986(昭和61)年に廃止。現在は象の鼻テラスのそばから山下公園までを結ぶ山下臨港線プロムナードとして整備されています。この廃線を使って、1989(平成元)年の横浜博覧会では鉄道車両が走ったそうですよ!

山下臨港線プロムナード
みなとみらいの夜景を一望できるおすすめスポット!左手には横浜税関「クイーンの塔」も

「象の鼻パークでは、汽車のターンテーブルである転車台も見ることができます」と小林さん。明治末のもので、敷地内での作業用手押し式車両に使われたものとされているそうです。夜になるとライトアップされます。

象の鼻パークの転車台
強化ガラスの下に転車台の遺構が見える

現役の貨物線が公園内を走る高島水際線(すいさいせん)公園には、公園造成中に発掘されたという、車輪のモニュメントが置かれています。高島操車場跡から出た車両ですが、当時使われていた車両の規格よりも小型で、なぜここから出土したのかは不明なのだそう!

みなとみらい大橋前にある高島水際線公園
謎を残す車輪のモニュメント

今回は、鉄道発祥の地から、みなとみらいの鉄道遺構スポットを、ぐるりと回ってみました。

みなとみらいというと、港や船のイメージがありますが、港の発展ととも築かれた鉄道の遺構は、街の発展の歴史でもあります。観光資源としてだけではなく、当時の記憶を現代に残していこうという想いが、みなとみらいの魅力につながっていると感じました。
かつての風景に思いを巡らせながら、現代のみなとみらいを歩いてみませんか?

◉CIAL桜木町ANNEX(シァル桜木町アネックス)
・旧横濱鉄道歴史展示(旧横ギャラリー) 入場無料
神奈川県横浜市中区桜木町1-1-93
市営地下鉄・JR根岸線「桜木町駅」JR桜木町駅駅新南口(市役所口)徒歩1分
https://www.cial.co.jp/sakuragicho/

CIAL桜木町ANNEX(シァル桜木町アネックス)

駅直結の駅ビル「CIAL桜木町」に新たな施設が2020年6月にオープン。1階には、ビアダイニングレストラン「DINING RESTAURANT KITEKI」の他、「旧横ギャラリー」「成城石井」が。2階には「スターバックス」が入店。

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・150周年記念イベント「CIAL桜木町レールウェイ・キャンペーン」(2022年9月27日~10月25日)
鉄道記念日の2022年10月14日から10月17日までの4日間、中等客車に乗車体験ができます。キャンペーンの間に、CIAL桜木町またはCIAL桜木町ANNEXで税込500円以上お買い上げの方を対象が対象です。


◉みなとみらいの鉄道関連施設情報

京急ミュージアム https://www.keikyu.co.jp/museum/
取材記事はこちら https://minatomirai21.com/special/4067

原鉄道模型博物館 https://www.hara-mrm.com/